おひとり様の小さな平屋

「結婚して家を建てる」「家族のために広い家を持つ」― そんな常識が少しずつ変わりつつあります。ライフスタイルが多様化し、「ひとり」を選ぶ人や、「ひとり」の時間を大切にすることが増えてきた時代。そんな時代に注目されているのが、【おひとり様の小さな平屋】です。
ミニマムな空間、ちょうどいい空間、手が届く暮らし。それは、単に小さな家を建てるという話ではありません。人生の中で「自分を満たす場所」をどのように持つか、その答えのひとつとしての住まいのあり方です。
このコラムでは、おひとり様の平屋が、なぜ今注目されているのか。その魅力と工夫、そしてこれからの暮らしにおける意味を探っていきます。
1.「ひとり暮らし」は、もはや特別ではない時代
ひと昔前まで、家を建てるという行為は「家庭を持つ前提」がありました。けれど今、未婚率の上昇や離婚後の単身生活、高齢者の独居など、「ひとり」で暮らすスタイルがごく自然なものになりつつあります。
さらに、テレワークの普及や地方移住への関心の高まりから「自分らしい場所で、自分だけの時間を過ごしたい」という声も多く聞かれるようになりました。そうした価値観の変化とともに、「おひとり様住宅」は住宅市場の中でも確実に需要が増えてきています。
中でも「平屋」という選択肢は、一人暮らしにフィットするスタイル。小さな空間でも、平屋ならではの開放感やつながり感が心地よく、自分の暮らしを丁寧に楽しむにはぴったりの住まいです。
2.小さな平屋が持つ豊かさとは ?
「小さな平屋」と聞くと、どうしてもコンパクト・必要最低限というイメージを持たれがちですが、実はその逆。余計なものを削ぎ落としたから生まれる「余白」の豊かさがあるのです。
・コンパクトなのに開放感がある
平屋はワンフロアで完結しているため、上下階の区切りが無く、空間のつながりが感じられます。たとえ20坪前後でも、天井を高くしたり、ウッドデッキとつなげたりすることで、視線と空気が抜けて開放的な印象になります。
・動線がスムーズでストレスがない
生活動線がコンパクトにまとまり、掃除や洗濯、料理などの家事がぐんと楽に。一人暮らしにおいて無理なく暮らせるというのは、実は非常に大きな安心感につながります。
・自分にとって必要なものだけを持てる
部屋数も収納も限られているからこそ、「何を持ち、何を持たないか」を見直すきっかけになります。ものを減らすことで、心が整い、自分の時間を大切にできるようになる。そんな丁寧な暮らしが小さな平屋には似合います。
3.「おひとり様平屋」の設計ポイント
おひとり様住宅において重要なのは、広さではなく「居心地」。以下に設計の工夫や暮らしを豊かにするためのヒントを紹介します。
・多用途に使える空間を
寝室と書斎を分ける必要はなく、ひとつの空間を「日中は仕事スペース」「夜はベットルーム」と使い分けるのもひとつの方法。建具や照明、家具の配置で緩やかに「時間帯」を切り替える工夫が有効です。
・外とのつながりを意識する
小さな庭やウッドデッキ、テラスなどを設けて、自然との関係性を暮らしに取り入れる。四季の変化を肌で感じられるだけで、日々の生活にリズムと喜びが生まれます。
・こもれる「居場所」をつくる
読書や趣味、昼寝にぴったりなヌックを設けると、一人の時間をより豊かに感じられます。あえて狭く、包まれるようなスペースは、安心感や集中力を高めてくれる不思議な力があります。
・最小限のメンテナンスで暮らせる設計に
将来的な自立した暮らしを考え、バリアフリー対応やメンテナンス性の高い素材選びも大切です。平屋であれば階段の上り下りもなく、歳を重ねても無理なく住み続けられます。
4.おひとり様平屋がもたらす心のゆとり
ひとり暮らしの家では、他人に合わせる必要がありません。起きる時間も食べる時間も、どこでくつろぐかも、すべて自由。そんな「暮らしを自分でデザインする喜び」は、おひとり様住宅ならではです。
また、ひとりだからこそ感じる静けさや孤独も、空間が整っていれば「豊かな時間」に変わります。好きな音楽を流しながらコーヒーをいれる時間、朝日が差し込む窓辺で本を読む時間……小さな平屋には、そうした自分と向き合う静かな時間がよく似合います。
5.人生の後半にも選ばれる「ひとり平屋」
小さな平屋は30~40代の単身者だけでなく、50代以降のセカンドライフにも選ばれるケースが増えています。子育てが終わった夫婦のどちらかが先に暮らし始めるパターン、離婚後や配偶者を無くした後にひとりで新しい生活を始める方など、人生の後半において「自分のための住まい」として選ばれているのです。
「もう家は要らない」「マンションで十分」と考える人もいるかもしれません。でも、自分が心から落ち着ける本当の居場所を持つことは。人生においてかけがえのない価値になります。
まとめ:小さな平屋に、大きな自由を。
おひとり様の小さな平屋は何も「さみしい家」ではありません。それはむしろ「自分で選んだ暮らし」を形にする、ポジティブで豊かな選択です。
自分に必要なものだけを詰め込んで、余計なものを手放し、身の丈に合った暮らしを楽しむ。ひとりでも、誰よりも満たされた日々。そんな暮らしがここから始まります。
これから家を建てようと考えている方、「ひとりの家なんて」と思っていた方も、是非一度、小さな平屋の魅力に触れてみてください。そこには、面積以上の自由と安心、そして、あなたらしい時間が待っているかもしれません。
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